突然ですが、皆さんがふだんプリンタでお使いの用紙はどのサイズですか。当然のごとくA4ばかり? それとも大学ノートサイズのB5でしょうか。
とまぁ、何気なく「A4」だの「B5」だのと言っていますが、正確な大きさはどうなっているのでしょう。そんなの「ページ設定」や「ドキュメント設定」のダイアログボックスを見ればわかる? まあ、お待ち下さい。そもそもなぜ「A」と「B」があるのかご存知?
というわけで、身近でありながらあまりよく知られていない紙のお話を、これから始めましょう。
「A」も「B」も、その基準はJIS規格で細かく決められています。JIS-P0138には「紙加工仕上寸法」として、A列B列共に0番から10番までの大きさが記載され、これに対して出来上がり前の原紙の標準寸法も併せて記載されています。原紙寸法も加工仕上寸法も、規格の大きさに寸分違わぬものである必要はなく、それぞれ許容範囲が設けられています(ただし原紙寸法で6mm、加工仕上寸法に至っては最大わずか3mm)。
上の表は「紙加工仕上寸法」の規格です。単位はmmです。この表を参考に、A列0番とB列0番の面積を計算してみて下さい。
A列0番が999,949平方mm、B列0番が1,499,680平方mmになりましたか?
では、この一見半端な数字の単位を平方メートルに直して小数点第二位以下を四捨五入してみて下さい。するとA0は1平方メートル、B0は1.5平方メートルときれいな数値になるでしょう。さらに、それぞれ縦横の寸法比をご覧下さい。どうです。A列B列共に、全部1:√2になっているでしょう。えぇ? と思う方は計算してみて下さい。1:√2という比率にはちゃんと理由があります。この比率の長方形は、何回半分に畳んでも同じ縦横比の長方形になるという法則があるんですね。表をよく見て下さい。番号が進むにつれて、それぞれ上のサイズの短い辺とすぐ下のサイズの長い辺の寸法が同じである上、下のサイズの短い辺の長さは上のサイズの長い辺の半分になっていますね。まだ疑わしいと思われたら、試しに1:√2の縦横比の大きな紙を用意して、どんどん半分に折畳んでみて下さい。どこまでも同じ縦横比になるでしょう(余談ですが、どんなに薄くて大きい紙でも、八回以上は絶対に折畳めないという言い伝えがあるのですが、これを破られた方はおいでですか?)。やけに細かい半端な数字が並んでいるだけに見える寸法表も、種やしかけが見えるとちゃんと意味があるものだということがわかりますね。
- AB:AD=1:√2とする長方形ABCDを、AとD、BとCがそれぞれ重なるように、EFで折る。
- 長方形BFEAで、BF:BA=√2/2:1=1:√2。
- よって、縦横の辺の長さの比が1:√2の長方形を半分に折った長方形の縦横の辺の長さの比は、常に1:√2になる。
ここまでで大きさの決まりがわかりましたね。今度はA、Bという二つの規格の由来についてお話しましょう。JISで原紙寸法が定められている紙の大きさには、A、B以外に、それ以前の時代からある規格の「四六判」「菊判」「ハトロン判」があります。
A列本判: | 625×880 |
B列本判: | 765×1085 |
四六判: | 788×1091 |
菊判: | 636×939 |
ハトロン判: | 900×1200 |
四六判は、「美濃判」という古い紙の大きさが基になっています。美濃判は江戸時代に徳川御三家のみが使用を許されていた由緒正しい規格で、明治になってから一般に普及したものです。やがて洋紙が使われるようになると、日本の印刷方式に合った用紙として、美濃判の約8倍の大きさの「大八ツ判」という紙が出回りました。このサイズの全紙を32面取りして裁ったものが四六判で(つまり美濃判の4分の1の大きさ)、寸法が昔の単位で言うところの四寸二分×六寸二分になるところからこう呼ばれました。
菊判は名前から察するに日本製の規格のようですが、実は違っていて、明治21年頃に新聞紙用にアメリカから輸入された紙が基になっています。一般向け販売を始めるにあたり、この紙の本国での商標であるダリアの花が菊に似ていたことや、皇室の紋章が菊であることなどから商品名が「菊印」に決まり、後に菊判と呼ばれるようなりました。菊判も四六判も日本市場に広く普及していきました。
ハトロン判は900×1200mmで、ハトロン紙という紙が基になっています。ハトロン紙は強度が高く印刷適性にもすぐれ、封筒や包装紙として以前はよく使われていましたが、現在ではほとんどクラフト紙に取って替わられたため、もう製造されていないということです(『オールペーパーガイド—紙の商品事典上巻・文化産業篇』より)。ただ、ハトロン紙の大きさ(909×1212mm)にちなんで、900×1200mmの大きさをハトロン判と称しています。なお「ハトロン」は、薬キョウを包む紙という意味のドイツ語の言葉「Patronen Papie」から取ったとされる説と、英語のHard rolled paperに由来するという説とがあります。
さて、昭和4年に、日本工業規格の前身である日本標準規格として、ようやく紙の大きさが公式にまとめられることになります。その際、普及していた菊判を参考としつつ、現在の国際規格にもなっているドイツの規格を採用して整理されたのがA列、四六判を参考として独自に定められたのがB列で、ここで初めてA、Bの規格が登場することになります。昭和4年の段階では、現在の大きさとは多少数値が異なっていましたが、これが昭和15年の改定で現在の大きさとなって日本工業規格に引き継がれ、現在に至っています。
そう言えば、日本でよく見るB5サイズの大学ノートやレポート用紙など、海外では見かけないと思いませんか? これはB列が日本独自の規格だからなんですね。最近、オフィスで使用する各種の用紙サイズをA4に統一する動きが見られますが、これは業務の国際化に合わせて紙のサイズも国際的に通用する規格にするためと思われます。
紙の歴史はとても古く、中国後漢の官吏蔡倫が製紙法を発明したといわれる西暦105年頃より前に、すでに前漢の時代から紙が作られていたとする説もあります。そこから二千年も経とうという現在、紙にまつわる新たな課題がいろいろと取りざたされていますね。コンピュータとマルチメディアの発展に伴う紙不要論、逆にOA機器濫用による紙の浪費、省資源問題による再生紙流行り、数十年で劣化する酸性紙問題などなど……。プリンタに用紙をセットしながら、紙のあれこれにふと思いをはせてみてはいかがでしょう。
執筆:杉山朋子、村松佳子、蛭田龍郎
参考資料
- 紙の活用アドバイス 洋紙と用紙
金児宰/光陽出版社/1992 - 紙の今昔 <新潮選書>
小林嬌一/新潮社/1986 - オールペーパーガイド——紙の商品事典 上巻・文化産業篇
紙業タイムス社出版部編/紙業タイムス社/1983 - わかりやすい紙の知識
吉野勇他/製紙科学研究所/1985