情報伝達の今後の展開

情報伝達を家業とする一家のホームドラマは、息子の電子メディアに PDFというガールフレンドができたことで新しい展開を見せようとしています。しかし、ドラマがどういう結末を迎えるのかは、まったくわかりません。

結婚した電子メディアとPDFが家業を継いで大きく盛り立て、両親である印刷と紙の老夫婦が茶の間で「ずいぶん私たちも楽をさせてもらって……いい嫁が来て幸せですね」としみじみ語り合うハッピーエンドで終わるのか。

あるいは、別の魅力的な女性が現れてPDFが振られることになるのか。さらに、結婚後のPDF がバリバリのやり手女房に変身し、義理の両親を無理矢理引退させて老人ホームに入れてしまう……など、さまざまなシナリオが考えられます。

しかしここでは、PDFが“電子的な紙”として情報伝達の発展に貢献することになるという筋書きでないと話が進みません(念のために申し上げておきますが、本書はAcrobatとPDFについての本なので)。

ひとつ確かなことは、情報伝達の媒体としての紙が、亀の甲羅や牛の骨、石板、粘土板、竹、皮紙などの過去の媒体と同様の運命を辿って消え去ることは多分ないだろうということです。それは、電子的な紙がどれほど便利になろうと、紙に転写したほうが都合のいい(あるいは転写して欲しい)情報があるからです。印刷という技術もまた、紙と一緒に丈夫で長生きすることになるでしょう。

情報伝達のさまざまな分野を電子メディアと電子的な紙の若夫婦が担うようになっても、紙と印刷の老夫婦の役割が終わるわけではありません。

情報伝達を家業とする一家のホームドラマの今後の展開は、家族全員が力を合わせて商売繁盛、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……という風になると考えるのが妥当なようです。