漢字に対するかなの様相

漢字に対するかなの立場は、三種類に分類できると思っている。標準かな、準用かな、独立かなである。戦国時代ではないが、正室、側室、愛人と例えてみたい。

対象となる漢字に対して最も標準的なかな、いわば正室にあたるのが標準かなである。どれが一番マッチしているかはさまざまな見方、見解があるだろう。一番最初にデザインされたものと定義しておこう。もっともマッチしているとオリジナルデザイナーが考えているものである。良妻であろうが愚妻であろうが、正室は正室なのだ。

次に準用かな。これは、一般的にはあまり使われていない名称かもしれない。さしずめ側室に相当するだろう。対象となる漢字に対して標準かなに準じて使用するものである。

第一に、漢字に対するかなの大きさに変化をつけたもの。大がな、小がなである。小がなは、漢字が主でかなを寄り添わせるという考えで制作されたもので、拾い読み的に便利で可読性に優れている。金属活字の時代から写植活字の初期までは主流だったかなである。大がなは、漢字とかなを対等に扱おうとする考えで制作されたもので、最近の傾向になっている。広告などで使った場合、均一なアキが得られるので紙面が明るく感じられる。

第二に、オールドスタイル、ニュースタイルといったスタイルの違いである。最近では、ディスプレイ、コミカルなど、いろんなものが出てきて、後で述べる独立かなと境界線が無くなってきている。とりあえず、独自の書体名称を持たないものとしておこう。

第三に、縦組用かな、横組用かなのように組み方向に関するもの。横組の増加に伴い横組用かなの必要性が叫ばれたが、あまりぱっとした例を見かけない。視線が縦に流れる場合と横に流れる場合では、おのずから設計の考え方が異なってくるはずである。挑戦したいテーマである。

この三方向を軸に展開させれば、そうとう壮大な準用かなシステムが構築できるはずである。石井細明朝体(写研)や大蘭明朝体(写研)、JTCウイン+ウインクス(ニィス)などの例があるが、さらに十分な構想をもつ準用かなシステムが可能ではないだろうか。

独立かなは、愛人に相当する。対象とする漢字を限定しないかな書体である。これらは独自の書体名を有している。愛人にもいろいろあって、おおまかに明朝体と組み合わせる、ゴシック体と組み合わせるといったように、組み合わせる漢字を想定させているものが多い。

味岡伸太郎かなシリーズでは、個性的なフォルムを明朝、ゴシック、丸ゴシックなどのかなとエレメントに合わせることによって、強大なファミリー展開を提案している(味岡伸太郎かなシリーズのファミリー展開)。この書体においても、組み合わせる漢字書体との太さ、大きさなどの調和は計算されている。

逆に、艶(写研)は、石井明朝体ファミリーに太さ、大きさを合わせて、硬筆風で女性的な筆法によって独自性を出したものだ(右図参照)。同様に、墨東などの佐藤豊かな(フォントワークスなど)のように、限定した書体それぞれに太さや大きさを合わせていこうという提案もある。

また、1960年台に登場したタイポス(グループタイポ制作)はフォルムにおいてもエレメントにおいても日本のタイプフェイスデザインに衝撃を与えた書体だ(タイポスのファミリー)。リデザインされて再登場したタイポスオールマイティは市販のすべての明朝体・ゴシック体とマッチする書体というが、目標は独自の漢字の制作にあることは明らかである。

ミックス(ニィス)は、組み合わせる漢字を限定しない書体だ。さらには、かなだけの使用に限られるものも考えられる。これらもまた、いずれは独自の漢字をデザインしようというものかもしれない。

今後も独特の構想を持った独立かなが登場するだろう。書体の多様化には、かなから入るのが有効だから。

漢字、かなに対する英字の可能性

金属活字の時代から写植活字の初期においては、和文組版における英字は既成の欧文から選んで組み合わせていた。和文の組版ルールではひとつの柱になっていた。

英字書体を選ぶ際の基本ルールとして、(1)平がなのウエイトやイメージにあったものを選ぶ、(2)エックスハイトの高い書体を選ぶ、(3)小文字のaからzまでの長さ(a-z length)が比較的長い書体を選ぶなどが、一般的にいわれている。

写植活字の時代も、そういったやり方であった。ところが、漢字・かなと英字とは構造上大きな違いがあるのである。漢字・かなは中心で揃えるのに対し、英字はベースラインで揃える。既成の英字書体だと、本格的な欧文組ならいいが、和欧文混植になるとディセンダーの分だけ英字が上がって見えるのである。

そこで、キャップハイトが天地中心になるように重心を下にした英字をデザインした。下に張り出してしまうディセンダーレターは、デザインを変更してあるのだ。(写研では、前者をE欧文、後者をR欧文といっていた)

明朝体やゴシック体の場合にはこの方法で良かったのだが、ディスプレイ用などさまざまな書体が登場するようになって、既成の英字書体では対応できなくなる。そこで、漢字・かなに合わせた英字を制作することが主流になってきたのである。

英字を漢字・かなに合わせて新規でデザインする場合、正室と側室という考え方が成り立つ。ゴナファミリー(写研)では、やや四角っぽいデザインの標準欧文(正室)に対し、丸みを持たせた準用欧文(側室)を用意している。さらに、今でも既成書体を使うことは多い。ゴナファミリーの例では、ヘルベチカを組み合わせる例も多く見かける。サイズ、ラインを調節しているが、ウエイトはどうしても合わない。それでも組み合わせるのは、デザイン的には欧米のものにかなわないということか。

漢字・かなに合わせた英字では、ディセンダーレターの問題が残る。縦組の場合のことも考えなければならない。そのため、多くの規制の中で制作しなければならないハンディがあるのだ。

いつの日にか、欧米の人をうならせるような英字書体が日本のデザイナーの手によってできればと願っているのだが。

新しい関係への模索

最近、明朝体の漢字にゴシック体のかなを組み合わせているのを見かけて驚いた。逆ならわかるが、これは許容できないぞと感じてしまう。自由に組み合わせができるといって、「何でもあり」でいいのだろうか。

日本語の文字組版が乱れていることは多くの人が指摘している。グラフィックデザインの面白さがタイポグラフィの機能を見失っているような気がしてならない。

かといって、タイプフェイスデザイナーの意図した組み合わせだけしか使えないというのも考えものであろう。理に適った組み合わせは、新しい創造なのである。

参考文献

  • TYPOGRAPHICS [ti:] No.126
    日本タイポグラフィ協会(仮名によるファミリー概念 味岡伸太郎)
  • タイポスオールマイティ・カタロブ
    エヌフォー・メディア研究所
  • 千都ニュース 東国より陽は昇る/他
    鳥海修/大日本スクリーン
  • TYPOGRAPHICS [ti:] No.148
    日本タイポグラフィ協会(商品としてのタイプフェイスとフォントの機能 布施茂)